蔵出し クラウドナイン page.3

夢中に思ってつくってる

如月 よく、芝居がやりにくい時代だみたいなこと言うでしょう。それについてはどう思う?やっぱりやりにくい?
木野 あんまり思わない。それは側面が変わっただけだと思う。やりにくいって言ったら、いつの時代もいろんな側面でやりにくかったという気がしちゃうんだけどね。
如月 例えば、日本の場合、いろんな特殊な事情があるでしょう。金銭的なものも含めて。それから、へたにブーム化しちゃってるとかそういうことも含めてね。そういうのと、どう関わり合い、どう距離を取っていこうかというのは、けっこう、戦略的に必要な部分があると思うんだけどね。
木野 よくそう言われるね。だけど、私、意識的に戦略とかって取ったことないのよ。こうしたらおもしろい、こうしたらおもしろくないっていうカンだけなの。客が今、こういうのを望んでるからなんて考えてたら、ああいう芝居はできなかったと思う。まず、自分が客だったら、こういう芝居を見たいというのが、一番の原動力で。
如月 じゃ、役者に対してはどうなの。自分が演じたらこうだなってふうに演出していくわけ?
木野 しない、しない。まず、見るでしょう。この役者が何をもっているのかなと思う。今、見せているものは興味ないです。この役者はもう一つこういうものを持ってるなというところを引き出したい。
如月 演出家ってのは、基本的に言葉しか持っていないでしょう。木野さんはその言葉をどう扱うんだろう。
木野 まず、見られているとか、うまく演じなきゃとか、脚本を分析して考えるとか、ほかの要素を全部取っぱらって、なし、なし、なしというところで、役者と私っていう関係性で芝居をやらせる。話しをして「そうでしょう」と言うと「うん」と言う。あっ、「うん」て出たなと思うわけですよ。その「うん」をまずこっちでつかまえて、少しずつ広げていって、どういうふうに状況になっても、役プラス本人の「うん」ってのがフッと出てきたらマルという感じだけどね。
如月 ものすごくしゃべるほう?
木野 どっちだろう。私はおもしろがるほうなんじゃないかな。おもしろいと大喜びしちゃうし……あんまり怒らないな。でも、おだてるってのもウソだからね。
私、遊んじゃうのね、稽古の時。だから明るいよ、稽古場は。だから、ほかの人たちとやった時に、こんなんで大丈夫かなと、役者が不安になるみたい。(笑)
如月さんにとっては、役者って何なの?私とはずいぶん違う捉え方をしているんじゃないかと思うけど。
如月 私は、他人っておもしろいなあと思っているわけ。自分と違う人間が、おもしろくてしょうがないわけ。だから、稽古の最初のころってのは、「もっと違うことやって」とか「変なことやって」とか、そういう感じで徹底的に待つのね。
木野 私、役者にスターになってほしい。関わる役者みんな、スターになってくれたらなあと思う。
如月 私はね、ちゃんとした暮らしを立ててくれたらいいなと思うの。芝居と生活と、同じ強さで思ってほしいのね。どっちかのために一方を捨ててほしくない。
だから、パーッと有名になったりするよりも、きちんと暮らし、きちんと芝居を作っている人とつき合いたい。
木野 おもしろいね。私、違うんだわ。どうせ役者やるなら、早く名声と「キャーッ」っていうのを味わわせて、それで足を洗えなくさせるというか。(笑)生活に余裕ができるのにこしたことはないけど、不器用なやつらというのはできないのね。でも、とりあえず芝居やりたいんだろうし、役者やりたいんだろうから、そのおもしろさをつかめばいいと思う。
如月 こういうのは私の性格もあるかも知れない。すごく几帳面で、慎重だから。
木野 じゃあ、登ったあとに落ちるのがいやなの?
如月 そういうんじゃないわね。(笑)単に一つ一つ積んでいく感覚が好きみたい。
木野 私、落っこちる楽しみもあると思っちゃうの。登りつめたあとに、絶対人気が落ちるでしょう。「そら見たことか」と言われた時に、さあ、どう引き受けるんだろうとかね。(笑)
如月 小さいころから、演劇には興味があったの?
木野 学芸会の主役でした。(笑)私、勉強はほんとにだめだったけど、運動会とか文化祭になるとね「あれやろう」とか「これやろう」って浮んでくるの。おまえはそういう時ばっかり身を乗り出してと、先生によく怒られてた。
如月 高校演劇とか、やってたの?
木野 やっていない。高校の時、役者が足りないからと友達に言われて、一回だけ出た。クラブは入ったことない。
如月 ご両親の影響とかは?
木野 ない、ない。
如月 突然変異!?
木野 そうだね。全然関係ない。
こういうことを言うと、演劇やっている他の人に悪いけど、私は志がないからさ。演劇って志がないと、ほとんど怠け者としか思えないよね。だって、理論とか、方法論を作るとか、テーマを考えるとか、面倒くさくてしょうがないもの。「青い鳥」なんかのああいうやり方を、方法論として書き上げたらと言われたことがあるんだけど、これから先、そんなものを後生大事に、十年、二十年とやりたくないからね。方法論、つくったってしょうがないやと思っちゃうの。
つくった先から飽きるしね。今、こういうふうだと、夢中に思ってつくってる、それだけでいいんじゃないかと思っちゃって、言葉にするの、すごく面倒。
如月 目標もない?
木野 ない、ない。目標があるとしたら、さっきから何回も言っているように、私が早く芝居をやらないで済むような、素直な心の女になれたらいいなってくらいよ。
そしたら、気が済んで、静かにちゃぶ台でご飯食べているんじゃない?その時は、如月さんの劇団に入れてもらえたりするんじゃないかしら。(笑)
 
(月刊すばる 1988年4月号より)
如月小春
劇作家・演出家。エッセイスト。
1956~2000年。
東京生まれ。東京女子大学哲学科卒業。東大演劇サークルと合同で劇団「綺畸(きき)」を結成し、演劇活動を始める。82年同劇団を退団。83年に演劇集団「NOISE」を旗揚げ。『DOLL』、『MORAL』など演劇に実験的手法を持ちこんだパフォーマンスが人気を集め、1980年代の小劇場ブームの旗手の一人として活躍する。劇団活動の一方、アジア女性演劇会議実行委員長、日本ユネスコ国内委員会委員、兵庫県こどもの館演劇活動委員などを務める。また、NHK「日本語再発見」のレギュラー、NHK-BS「週刊ブックレビュー」の司会も務めた。著書に「如月小春のフィールドノート」「私の耳は都市の耳」「都市民族の芝居小屋」「子規からの手紙」など。戯曲集に「如月小春精選戯曲集」、エッセイ集に「都市の遊び方」などがある。
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