蔵出し クラウドナイン page.2

フェミニズムってことに関しては何も考えてない

如月 その、怖いというのは……?
木野 ウーン、いろいろあるね。翻訳劇ってやったことなかったから、どうこなせるかというのも、ほんと、やってみないとわからない世界で怖かったし、テーマが「性」というところで、真っ正面から付き合えないなっていう、最初からお手上げのところがあって。ただ、一番興味を持ったのは、役者としてこんなふうな芝居に出たら、これほどおもしろいこと、ないんじゃないかと思ったの。
二役があって、一幕と二幕であんなにガラッと変わって、あれだけ一つの芝居で自分を試せるってことはないんじゃないかと思うと、やっぱりやらせたいと思ったの。役者たちにね。
如月 なるほどね。私が読んで最初に思ったのは、強烈にフェミニズムの芝居だということだったの。ヨーロッパやアメリカでは、女の人が芝居をやる時に、フェミニズムの問題とどうつき合って、どのスタンスで自分がやっていくのかみたいなことが、問われる雰囲気って、わりとあるでしょう。
木野 それはね、パスなの、私。そんなことは全然気にならないし、どう問われてもいいし、フェミニズムってことに関しては、何も考えてないんだよ。「やればいいじゃない」ということだけなの。底が浅いとかどうのこうのって言われたとしても、「そうね」とか思っちゃう。
如月 私、そこがすごいなと思ったわけ。そういう木野さんだから、できたんだろうと思うのね。だって、フェミニズムをああいう欧米風に引き受けようとしたら、とても大変でしょう。
木野 引き受けられないよ。
如月 それとは別なところで、女で芝居つくってて、こんな年になっちゃったみたいなのが、素直なところだと思う。それを素直なままでやっちゃったところが、私、すごいなと思ったんです。
木野 フェミニズムなんてことに関しては、ほとんど考えてなかった。それは、何もないってことじゃなくて、いろいろあるけど、それは自分の体験してきたこと  すごく個人的なことでしかないのね。だから、メッセージを送りたいという欲求もないし。ただ、私なりのフェミニズムを持っていればいいんじゃないかと
如月 うん、それはよくわかる。
 
木野 ただ、『CLOUD9』に関しては、私、客観的になれないの。とっても大変だったんですよね。こんなもの、何でやっちゃったんだろうというくらいにね。相当したたかな作家なんですよ、あの人は。私みたいな青二才というか、考えの浅い人間がどうのこうのして、どうにかなる問題じゃないような、やればやるほどはまり込むみたいな怖いところがあってね。
「青い鳥」の芝居をやっている時は、「さあ、運動会が始まるぞ」みたいに、みんなでやっていたの。だから、苦しいとかいうのも全部快感にしていけるような何かがあって、自分たちの好き勝手をやっているような「自分たちのもの」というのがあったのに、『CLOUD9』の時は、突然、外の世界がバーッと入り込んできちゃった。
つまり、自分たちの世界で好きにやってきたという、花園みたいなものがあって、その花園の扉をバーッと開けた時に見えた世界に、おぼれそうになっちゃったということなのね。とても怖かったの。足がつるみたいに怖かった。
今、あの怖さって何だったんだろうって思うんだけどね。とにかく、見ちゃったという……
如月 当たっているかどうかわからないけど、『CLOUD9』を見た時、一つ思ったことがあるのね。というのは、「青い鳥」の時の芝居っていうのは、閉じた系の中で行われていたと思うの。孤立感というか、自閉症的なというか。その閉じた系というのが、ある種の時代感覚の閉じ方とピタッとはまって、みんなが見たい夢というのかしら、閉じた系の中で見たい夢というのを体現していたと思うんですね。いい夢も悪い夢も含めて。
ところが、『CLOUD9』というのは、木野さんがおっしゃったように、歴史とか性とか家族とかからんでくる、全くもって開いた系の話しなのね。閉じた系の中で生きていた人間が開いた系の中に放り込まれたら、これは大変なことになる。でも、開いた系の中で生きていかなければ、人間、これから先の世の中で社会化しないわけですよ。
多分、私たちの世代、あるいはその前後、特に「後」の人たちは、その瀬戸際、ものすごい葛藤の中に置かれていると思ったんです。だから『CLOUD9』を見た時に、木野さん、すごい冒険したな、すごい勇気あったなと思ったわけ。
木野 最初は軽く考えていたのね。でも、始めたら怖くて、泣いちゃったんですよ、私。家に帰るとね、泣かずにはいられないくらい全然できていない。
こういうふうにやろうと思っているのに、全部正解じゃないというか、そんなものは答えじゃないみたいになってきてね。自分を変えるしかないってところまで追いつめられて行って……役者みんなそうでしたよ。
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